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【双语阅读】【白夜行】第十九回

时间:2011-09-21 11:26:25  来源:可可日语  作者:Anna

江利子が雪穂の家へ遊びに行くことが決まったのは、この後だった。先日借りた本を持ってくるのを忘れたから、家まで来ないかと誘われたのだ。本のことなどどうでもよかったが、雪穂の部屋を訪れるというチャンスを逃す気はなく、迷わずにオーケーした。
 バスに乗り、五つ目の停留所で降りてから一、二分歩いた。静かな住宅地の中に唐沢雪穂の家はあった。決して大きな屋敷ではないが、こぢんまりとした前栽《せんざい》のある上品な日本家屋だった。
 その家で雪穂は母親と二人で住んでいた。居間に行くと、その母親が出てきたのだが、彼女を見て江利子は少々戸惑った。この家にふさわしく、品のいい顔立ちと身のこなしをした人だったのだが、祖母といわれても不思議ではないほどの年齢に見えたからだ。地味な色調の和服を着ているせいとも思えなかった。
 江利子は最近耳にした、ある不愉快な噂話を思い出していた。それは雪穂の生い立ちに関するものだった。
「ゆっくりしていってくださいね」穏やかな口調でそういうと、雪穂の母親は居間を出ていった。どこか病弱な印象を江利子は受けた。
「優しそうなおかあさんやね」二人きりになってから江利子はいってみた。
「うん、とても優しいよ」
「門のところに裏千家の札が出てたよね。お茶を教えておられるの?」
「うん。茶道のほかに華道も。あと、お琴も教えられるんじゃないかな」
 すごーい、と江利子は身体を後ろにのけぞらせた。「スーパーウーマンやね。じゃあ、雪穂もそういうことできるの?」
「一応、お茶とお華は教えてもらってる」
「わあいいな。ただで花嫁修業ができるんだ」
「でも結構厳しいよ」そういって雪穂は、母親の淹《い》れてくれた紅茶にミルクを入れて飲んだ。
 江利子も彼女に倣った。いい香りのする紅茶だった。きっと単なるティーバッグじゃないんだろうなと想像した。
「ねえ、江利子」雪穂が大きな目で、じっと見つめてきた。「あの話、聞いた?」
「あの話って?」
「あたしに関すること。小学生時代のこと」
 突然切り込まれ、江利子はうろたえた。「あ、ええと」
 雪穂はかすかに微笑んだ。「やっぱり聞いたんだね」
「ううん、そうじゃなくて、ちょっと耳にしただけというか……」
「隠さないで。大丈夫だから」
 そういわれ、江利子は目を伏せてしまった。雪穂に見つめられると、嘘をつけない。
「結構、噂になってるのかな」彼女は訊いてきた。
「そんなことはないと思う。まだ殆ど誰も知らないと思うよ。あたしに教えてくれた子も、そういってた」
「だけど、そういう会話が成り立つこと自体、ある程度広まってるってことだよね」
 雪穂に指摘され、江利子は返す言葉がなくなる。
「ねえ」雪穂が江利子の膝に手を置いた。「江利子が聞いたのは、どういう話?」
「どういうって、そんなに大した話やないよ。つまんない話だった」
「あたしが昔すごい貧乏で、大江の汚いアパートに住んでたとか?」
 江利子は黙り込んだ。
 雪穂はさらに尋ねてくる。「本当の母親が変な死に方をしたとか?」
 江利子はたまらず顔を上げた。「信用なんか全然してないよ」
 その懸命な口調がおかしかったのか、雪穂は頬を緩めた。
「そんなに必死に否定しなくてもいいよ。それに、その噂、全くの嘘でもないもの」
 えっ、と声を出し、江利子は親友の顔を見返した。「そうなの?」
「あたし、養女なの。中学に上がる前に、この家に来たのよ。さっきのおかあさんは、あたしのじつの母親ではないの」気負った様子もなく、自然な口調で、何でもないことのようにいった。
「あ、そうなんだ」
「大江に住んでたのは本当。貧乏だったのも本当。お父さんがずっと前に死んじゃってたからね。それからもう一つ、母親が変な死に方をしたというのも本当。あたしが六年生の時だった」
「変な死に方って……」
「ガス中毒」雪穂はいった。「事故死よ。でも、自殺じゃないかと疑われたこともあった。それくらい貧乏をしてたからね」
「そうだったの」
 どのように相槌《あいづち》を打っていいかわからず江利子は戸惑ったが、雪穂のほうは特に重要なことを告白したつもりもなさそうだった。もちろんそれは友人にいらぬ気遣いをさせてはならないという、彼女らしい配慮に違いなかった。
「今のおかあさんはおとうさんのほうの親戚で、あたし、昔から時々一人でここへ遊びに来ていたから、あたしのことをすごくかわいがってくれてたの。それであたしが孤児になった時に、かわいそうだといってすぐに引き取ってくれたというわけ。自分も独り暮らしで寂しかったみたい」
「そういうことだったんだ。大変だったんだね」
「まあそうね。でも幸運だったと思ってるの。本当だったら施設に入らなきゃいけなかったんだもの」
「そうかもしれないけど……」
 同情めいたことをいおうとし、江利子は言葉をのみ込んだ。ここで何をいっても、雪穂に軽蔑されるだけのような気がした。彼女の苦しみがどれほどのものであったかを、苦労知らずで育ってきた自分に理解できるはずがないと思った。
 それにしても、そんな苦境を乗り越えてきたというのに、この雪穂の優雅さはどうだろうと、江利子としては改めて感嘆するしかなかった。それともそれらの体験が、彼女を内面から輝かせているのだろうか。
「ほかにはどういうことが噂になってるのかな」雪穂が訊いてきた。
「知らない。そんなに詳しくは聞いてないもの」
「きっと、あることないこと噂されてるんだろうな」
「気にすることないよ。そんな噂を流してる連中は、雪穂に嫉妬してるだけなんやから」
「別に気にしてるわけじゃないの。ただ、噂の発信源は誰なのかなと思って」
「さあね。どうせどっかの馬鹿女じゃないの」江利子はわざと乱暴な口調を使った。この話題は早く終わりにしたかった。
 江利子が聞いた噂話には、もう一つエピソードが含まれていた。雪穂の本当の母親はかつて誰かの妾《めかけ》をしていたが、相手の男が殺された時には警察から疑われた、というものだった。自殺したのは捕まりそうになったからだという、まことしやかな尾鰭《おひれ》もついていた。
 だがもちろん、こんな話を雪穂に聞かせるわけにはいかなかった。彼女の人気に嫉妬した者によるでまかせに決まっていた。
 この後、江利子は雪穂が最近凝っているというパッチワークの作品を見せてもらった。座布団カバーやポシェットなどだ。色とりどりの布の組み合わせが、雪穂のセンスのよさを物語っていた。一つだけ、まだ未完成らしいが、少し色合いの違うものがあった。小物入れにでも使うつもりらしいその袋は、黒や紺といった寒色の布だけで作られていた。こういうのもいいね、と江利子は本心から褒《ほ》めた。

 

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